膵発生過程におけるDll1、Jagged1の役割膵内分泌細胞分化に必須の転写因子:Ngn3が、Notch下流にて機能するHes1の標的遺伝子であることから、膵細胞分化にNotchシグナルが関与することは早くから想定されていたが、膵細胞に主として発現するとされたNotch1/2遺伝子欠損マウスでは膵発生異常がきわめて微細なことから、膵発生におけるNotchシグナルの役割には疑問が呈されていた。我々は、膵未分化上皮細胞(CD49f^+CD326^+にてNotch1、Notch2およびNotch3が発現することを見出し、Notch分子群に機能的重複がある可能性を示唆した。また同細胞にDll1、Jagged1が発現することを確認した。そこで、Ptfla-Cre、Dll1-、Jagged1-floxedマウス(膵実質細胞にてDll1、Jagged1遺伝子を欠失)を作製・解析し、(1)未分化内分泌細胞への分化亢進、(2)腺房組織の減少、(3)膵管の異常拡大、(4)ラ島構造の異常とa/b細胞比の上昇等の異常形質を伴う、膵臓の発生不全を認めた。さらに、同遺伝子欠失マウス膵臓では、発生後期に、未分化内分泌細胞(CD49f^<lo>CD133^+)および膵幹細胞(DBA^+CD326^+CD133^+)画分が顕著に減少することを見出した。これは、幹細胞を含む膵実質未分化細胞の"未分化性"を維持するために、Dll1/Jagged1を介するNotchシグナルが必須であり、その消失が未分化細胞の枯渇を促すことを示しているものと推察された。以上のことから、膵細胞分化におけるNotchシグナルの役割が初めて明確となり、今後の、膵未分化細胞を用いた膵組織再生におけるNotchシグナルの有用性を明らかにできた。
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