GDNFシグナル不全により腸管神経系に誘導される新規細胞死が、腸管神経系の正常発生およびヒルシュスプルング病の病態発症にどの程度関与しているかを明らかにするため、マウス生体内で腸管神経細胞死を抑制する遺伝学的操作を試みた。 先行研究により、GDNF存在下で培養された腸管神経細胞は、GDNF除去によりBax非依存性、カスパーゼ非依存性の細胞死を起こし、この細胞死はBcl-xLの過剰発現により抑制されることが明らかとなっていた。この知見をもとに、gene targetingにより腸管神経系でBcl-xLを高く発現するRet-Bcl-xLマウスを作製した。その結果以下の知見を得た。 1.Ret-Bcl-xLマウスでは、Ret不活化による腸管神経細胞死が抑制され、約半数の個体で見かけ上正常の腸管神経系が形成された。Bcl-xLの発現上昇が生体内で腸管神経細胞死を抑制できることが明らかとなった。 2.Ret-Bcl-xLアレルによりrescueされたRet不活化神経系では、腸管内の便滞留とNOS陽性細胞の減少が認められ、Retの発現が腸管神経系の機能と特定の神経サブタイプの分化に必要である可能性が示された。 2.Ret-Bcl-xLアレルを持つマウスでは腸管神経細胞の数に変化は認められなかった。すなわち、発生中の腸管神経系では生理的細胞死が起きていない可能性が示唆された。 3.Ret-Bcl-xLアレルはヒルシュスプルング病モデルマウスにおける無神経節腸管の発生をほぼ完全に抑制した。腸管神経系の機能と神経分化にも異常は認められなかった。この結果は、ヒルシュスプルング病の発症において細胞死が中心的な役割を果たしていることを示唆し、細胞死抑制による発症予防というヒルシュスプルング病の新たな治療戦略の可能性を提示した。以上の結果はJ Neuroscienceにin pressとなった。
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