研究概要 |
マラリア原虫のヒトへの侵入型であるスポロゾイトは、蚊の吸血によって刺入されると血流に乗って肝臓に至り、肝細胞内に侵入し、肝細胞期の発育を開始する。本課題は、感染成立の鍵を握るスポロゾイトの肝細胞への侵入の分子機構を明らかにするために、既知の侵入関連原虫分子と相互作用する肝細胞膜上の分子を同定することを目的として実施している。今年度は、ネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)と、ヒト肝臓由養細胞HepG2をモデル系として以下の研究を実施した。 スポロゾイトの肝細胞寄生に関与する虫体由来の分泌タンパク質であるP36p,P36およびTRAPについて、N末端側にGSTを融合させた全長の組換えタンパク質を小麦胚芽由来無細胞タンパク合成系を用いて作成した。これらの組換えタンパク質が肝細胞に接着するか否かを解析するため、HepG2の培養上清に作成した標的組換えタンパク質を添加して反応させた後に、抗GST抗体を用いたELISA法を行って結合を検出した。引き続きHepG2細胞を抗原とするfar western blotting法によって、肝細胞膜タンパク質のうち P36p,P36,およびTRAPと相互作用する分子の同定を行っている。 一方で、赤血球への感染の際に足場(tight junction)形成に関わることが知られているロプトリー貯蔵分子13個についてもRT-PCR法による発現解析を行い、スポロゾイト期においてもこれらの分子が転写されていることを明らかにした。このうちの一つをスポロゾイト期特異的に機能欠損させた遺伝子組換え原虫を作出し、そのスポロゾイトをマウスに感染させたところ、肝臓感染能が大きく損なわれることを見出した。この結果、スポロゾイトのロプトリー貯蔵分子が肝細胞感染に際しても重要な役割を果たすことが明らかとなったので、これらの分子に関しても肝細胞側の相互作用分子の同定を行っている。
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