遺伝子組換え蚊の新しい利用法として、蚊の唾液腺にワクチン抗原タンパク質を発現させ、蚊が吸血する際に唾液とともに宿主にワクチンを送り込み抗体を獲得させる"Flying vaccinator"とよばれる新しいワクチン投与法の構想がある。当該研究では、ハマダラカ唾液腺特異的に機能するプロモーターを同定し、唾液線に外来遺伝子を発現させることにすでに成功している。今回、モデル実験としてこのプロモーターを利用し、リーシュマニアのワクチン候補抗原タンパク質として知られるサシチョウバエの唾液タンパク質(SP15)を唾液腺に発現する遺伝子組換えハマダラカを作製した。ハマダラカにはSP15遺伝子をDsRedとの融合タンパク質として発現するように導入したところ、導入した個体ではSP15がDsRedとの融合タンパク質として発現し、雌唾液腺特異的にDsRedの蛍光が観察された。また口吻からはDsRedの蛍光が放出されているのが観察された。さらに、この遺伝子組換え蚊をマウスに頻回吸血させたところ、吸血マウス体内においてSP15タンパク質に対する抗体が産生されていることが確認された。これらのことから作製した遺伝子組換え蚊は唾液中にワクチン候補抗原を発現し、"Flying vaccinator"として機能することが示された。 21年度に得られた上記研究成果により、世界で初めてハマダラカ唾液線に外来タンパクを発現・分泌することが可能となった。22年度以降はこの研究をさらに推進し、ハマダラカ唾液腺とマラリア原虫の相互作用の解明を目指す。
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