レジオネラ属の細菌はヒトに致死的な肺炎を引き起こす細菌である。他の肺炎を起こす細菌やウィルスはふだん上気道に生息しており、そこから主に飛沫感染によりヒトに伝染する。これに対しレジオネラ属の細菌は淡水や土壌などを生息場所としており、環境からヒトに感染することが特徴である。したがってレジオネラによる感染を、感染源・感染経路をふくめて総合的に理解するには、レジオネラとヒトとの寄生関係だけではなく、レジオネラが自然界でどのような生存をしているかを理解することが必要である。レジオネラの自然界での生存戦略の特徴はアメーバなど原虫の中で増殖できる能力をもっていることである。その他にも自然界と哺乳動物との間にある環境条件の違いを乗り越える能力など、研究すべき課題は多い。本研究では(1)自然界の(体温より)低い温度での増殖を可能にする遺伝学的機序、(2)細胞内での増殖を可能にする糖代謝の解析、(3)細胞内増殖の場の解析、を行った。その結果、(1) L. pneumophilaは低温でのアメーバ内増殖を可能にする遺伝子をもっている、(2)糖代謝にはEntner-Doudoroff経路を使い、この経路は細胞外細胞には使われていないが細胞内増殖には必須である、(3) L. oakridgensisがホスト細胞の小胞体内で増殖している可能性があることを示した。
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