研究概要 |
百日咳菌(Bordetella pertussis)に代表されるボルデテラ属細菌は,III型分泌装置を介して宿主細胞内に移行するエフェクターが病原性発揮に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。申請者らはこれまでに,BopC, BopNエフェクターの機能解析を行い,これらエフェクターは宿主免疫応答からの回避に関与していることを明らかにしている。III型分泌装置によって細胞内に移行するエフェクターは,他菌種では数十種以上存在することが報告され,ボルデテラ属細菌でも未同定のエフェクターが存在することが示唆されている。本研究ではHybrid LC/MS/MS Systemとisobaricペプチドによるラベル化システム(iTRAQ)を利用して,気管支敗血症菌(B. bronchiseptica)のIII型分泌装置に依存した新規エフェクターの同定を行った。その結果,分子量20kDaの分泌タンパク質(p20エフェター)が細胞内に移行することを明らかにした。p20と相互作用する宿主側因子を解析した結果,hnRNPHを同定した。興味深いことにp20の欠損株ではIII型分泌タンパク質の産生量が亢進しており,相補株では野生株と同じような産生パターンを示した。さらにqRT-PCR解析の結果,p20はIII型分泌タンパク質を転写レベルで調節していることを明らかにした。これらの結果,p20エフェクターは宿主細胞内でエフェクターとして機能するだけではなく,菌体内ではIII型分泌タンパク質の負の転写制御因子として働くことが強く示唆された。さらに,BopCのシャペロンとして長らく認識されていたBtcAは,III型分泌装置によって菌体外に分泌されるタンパク質であった。このように本研究の進展により,ボルデテラ属細菌の分泌タンパク質の新たなレパートリーが解明されつつある。
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