研究課題
インフルエンザAウイルスはヒトを含む多くの哺乳類および鳥類に感染する病原体であり、インフルエンザは重要な人獣共通感染症の一つである。現行の注射による不活化ワクチンは、中和抗体の標的であるヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)、に対する血中抗体の産生を誘導し、重症化を防ぐが、粘膜組織でのウイルスの初感染を阻止できない。また、現在ヒトに流行しているインフルエンザウイルスとは異なるHA亜型のウイルスによる「新型インフルエンザ」に対しては、現行のワクチンは全く無効である。本研究は、それら諸問題を解決し、インフルエンザに対する新規予防・治療法を開発するための基盤研究である。BALB/cマウスの鼻腔内または皮下に様々な亜型のフォルマリン不活化インフルエンザウイルスを2-3週間間隔で2または3回接種し、ヘマグルチニンに特異的な血清中の抗体量をELISAで測定した結果、複数の亜型のウイルスに対して交差反応性を示す抗体が誘導されることが明らかになった。誘導された抗体は、皮下接種群ではIgGが多くIgAはほとんど検出されず、一方経鼻接種群ではIgGおよびIgAが高い値で検出された。しかし、これらの抗体は通常の中和試験において、異なるHA亜型のウイルスに対して中和活性を示さなかった。これは、誘導された亜型間交差反応性抗体がウイルス表面のHAに結合しても、細胞への侵入を阻止しないことを示している。一方、ウイルスを細胞に吸着させた後にこれらの抗体存在下で増殖させると、抗体の交差結合が認められたHA亜型のウイルスに対してプラック形成の抑制が認められた。これは、細胞表面に存在する抗体によってウイルスの出芽あるいは粒子形成過程が抑制された結果(細胞表面中和)と考えられる。またこの抑制効果は、皮下免疫よりも経鼻免疫を行った群で顕著に認められたことから、経鼻免疫でのみ誘導されるIgAが、この細胞表面における中和活性に主な役割を担っていることが示唆された。
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