研究概要 |
当該年度の研究では、先年度明らかにしたHIVプロウイルスDNAのクロマチン構造に関する研究を更に進めた。すなわちHIVプロウイルスの細胞内での潜伏感染に伴ってこのDNA周囲のクロマチン構造は主としてヒストン蛋白の「脱アセチル化」によって維持されている。我々は以前の論文(Imai et al., J. Immunol. 2009)で歯周病菌が嫌気性下で産生する酪酸が脱アセチル化を触媒する酵素HDACを抑制することを報告した。平成22年度は、同様な作用を持つSAHA誘導体NCH51による潜伏感染HIVの転写レベルでの活性化を明らかにし、その際に主要な役割を持つ転写因子を明らかにした。種々のHIV LTR塩基配列の変異体を作成してHIVの転写制御を担うLTRに結合するどの転写因子が関与しているかを検索したところ、宿主転写因子であるSp1の結合する部位がなければHDAC阻害剤による転写誘導が起こらない事を明らかにした(Victoriano et al., FEBS Lett, 2011 in press)。元来は転写活性化因子であるSp1がこの場合には転写抑制に関与していることになるが、その詳細を明らかにするためには更なる研究が必要である。 他方、Tat阻害剤の開発は現在も継続して進めているすでに第一次in silico screeningの結果を基に、暫定的なTat阻害剤を得たが、この暫定化合物を基にchemoinformaticsの手法で類似化合物を検索し、培養細胞株や種々のHIV感染細胞を用いて抗Tat作用と抗HIV作用を検索しているところである。また、薬剤標的であるCyclin T1 とTatとの複合体構造モデルの妥当性を接触アミノ酸に変異を加えて確認した(投稿中)。
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