研究課題/領域番号 |
21390142
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
岡本 尚 名古屋市立大学, 大学院・医学研究科, 教授 (40146600)
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研究分担者 |
朝光 かおり 名古屋市立大学, 大学院・医学研究科, 講師 (20381783)
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キーワード | HIV-1 / NF-κB / Tat / Cyclin T1 / 潜伏感染 / HDAC / クロマチン |
研究概要 |
これまで数多くの抗HIVが開発されHIV感染者の余命は著しく延びた。しかし、その反面で重篤な副作用の問題と絶えず起こる薬剤耐性ウイルス出現という新たな問題が出現してきた。また、既存の抗HIV治療薬は細胞内に潜伏感染しているプロウイルスに対しては効果を発揮すべくもない。これは、従来の治療法が、ウイルスの複製の律速段階である「転写」の段階に対しては全く対処しきれていなかったことによる部分が大きいと考えられる。その背景にはHIVプロウイルスの転写調節機構の研究成果が十分でなく、治療のための標的分子を把握することが困難であった事情もあった。 本研究計画では、分子レベルでHIVの転写制御機構を明らかにし、新たな治療戦略を探った。当該研究の中で以下の点を明らかにした。HIV特異的転写活性化因子TatがHIV転写を特異的に活性化する分子機構を探求し、とりわけTatと宿主因子Cyclin T1(CycT1)の結合様式の詳細を明らかにした。CycT1は宿主細胞の転写伸長促進因子P-TEFbの調節性サブユニットを構成し、Tatは同時にHIVプロウイルスから転写されるmRNAと結合するため、結果的にTatによってP-TEFbが転写中のHIVのmRNAに特異的に引き寄せられる。その結果、HIV-1転写の特異的な活性化が引き起こされる。我々は、近年解明され公開されたTat、CycT1およびP-TEFbの触媒サブユニットであるCdk9、との蛋白分子複合体の3次元立体構造の情報を用いてTatとCycT1の分子間相互作用をそれぞれの分子上のアミノ酸残基およびその側鎖の原子レベルまで解明した。これらの成果はTat阻害剤を開発するための重要な科学的基盤を提供し、現在我々はTat阻害剤の分子設計を進めているところである。また、細胞内に潜伏感染しているHIVプロウイルスDNAの周辺のクロマチン構造の解明と種々の修飾因子と潜伏感染しているHIVウイルスの複製との関係を、複数の潜伏感染細胞株を用いて明らかにした。とりわけ、HIV感染に伴う日和見感染を起因する歯周病菌が嫌気性解糖の過程で大量に産生する酪酸の持つHDAC阻害活性が潜伏感染HIVからの複製を著明に促進することなどを初めて明らかにした。
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