研究課題
マウスAPOBEC3遺伝子には系統間の機能性型があり、レトロウイルス感染に抵抗性を示すC57BL/6系統では、感受性のBALB/c系統に較べて造血系組織でのAPOBEC3遺伝子発現量が高く、その転写産物は第5エキソンを欠くもの(Δ5)が主体を占める。これに対してBALB/c系統で検出される発現産物は、大半が全長型である。しかし、APOBEC3遺伝子発現量の多寡や第5エキソンの有無を決める遺伝的制御機構はこれまで明らかでなかった。今年度は先ず、タンパク質レベルでの解析を行い、mRNA発現量だけでなく、タンパク質発現量に系統間の差があることを明らかにした。さらに、第5エキソンの有無が、タンパク質の安定性や分解の制御ではなく、翻訳効率の著しい差を通じてタンパク質発現量に影響することを明確に示した。従って、第5エキソンの有無を決める機構の解明が重要となった。そこで、ゲノムクローンを用いた試験管内スプライシング実験により、以前から指摘されていた第4イントロン分岐部位多型の影響は小さいこと、これに代わり、従来全く知られていなかった第5エキソン内部から第5イントロン上流部の塩基配列多型がスプライシング制御に重要な役割を果たすことを明らかにした。最終的に、ゲノムクローンにおける標的配列変異誘導を行い、第5エキソン内のただ一つの単一塩基多型が、このエキソンのスプライシングに決定的な役割を果たすことを解明した。第5イントロン全体を含むゲノムクローンにおいても、同定した単一塩基多形の遺伝子型に応じて、転写産物における第5エキソンの有無が決定される。来年度は、この新規スプライシング制御部位多型の進化論的意味と、mRNA高次構造によるタンパク質翻訳制御の可能性を追求していく予定である。
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