研究課題
われわれはこれまでに、生理活性リン脂質であるリゾフォスフナチジン酸(LPA)を生成するリゾリン脂質代謝酵素autotaxin(ATX)がリンパ節高内皮細瀞脈(HEV)に選択的に高発現してリンパ球トラフィキングを正に制御することを明らかにしてきた。本研究では、以下のことが明らかになった。(1)HEv細胞の培養上清にはlysophosphatidyl choline(LPC)をLPAに変換することができる活性型ATXが恒常的に放出された。(2)HEVに発現するATXの一部はHEV内皮細胞細胞膜上に固相化されて、その生物学的活性を発揮する。(3)ATXの膜上への固相化は二価イオン非依存的であり、インテグリンを介するものではなかった。(4)慶応大学の杉浦、末松らとの共同研究により、リンパ節におけるimaging mass spectrometry解析を行ったところ、HEVの近傍で局所的にLPAが生成されていた。(5)LPAはROCK依存性に内皮細胞の動きを誘導することにより、リンパ球の血管外移動を制御した。(6)LPAは、リンパ球に対してはケモタキシス誘導能はないが、ケモキネーシス誘導能をもっていた。以上のことから、HEV内皮細胞が産生するATXは血中のLPCを生理活性型リゾリン脂質LPAに変換し、HEVで産生されたLPAは局所的にHEV内皮細胞に働くとともに、リンパ球にも働ぎ、その運動性を亢進させると考えられる。現在、HEV内皮細胞上の責任LPA受容体については同定を試みているところであるが、少なくともLPA1,LPA3ではないという結果が得られている。この他に、脾臓ではATXは、白脾髄と赤脾髄の間に存在する辺縁洞に発現するとともに一部のストローマ細胞にも発現していた。胸腺では皮髄境界の特定の血管に発現が見られた。そして、蛍光標識リンパ球を静脈注射するとこれらの血管の周囲に短時間に投与リンパ球の浸潤が見られたことから、ATXはリンパ節のみならず、脾臓と胸腺においてもリンパ球動態に関与する可能性がある。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (10件)
Crit.Rev.Immunol.
巻: 31(Review) ページ: 147-169