研究概要 |
薬剤耐性菌の出現は医学的・社会的に大きな問題である。患者から分離される多くの薬剤耐性菌には、薬剤が結合する分子の変異が認められる。しかし、何かどのようにして変異を誘発するかを検討した研究はない。本年度は環境変異原物質が、常在菌でしかも薬剤耐性菌の出現が問題となっている緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に薬剤耐性を獲得させるか、薬剤標的分子の遺伝子に変異を誘発するかを検討した。 変異誘発実験で用いられるethylmethansulphonate (EMS)、N-nitroso-N-methylurea (MNU)、抗がん剤である1,3-bis(2-chloroethyl)-1-nitrosourea (BCNU)、排ガス中に存在するbenzopyrene、1,6-dinitropyrene(1,6-DNP)、たばこ煙中のN-nitrosonornicotineを緑膿菌に曝露し、rifampicin(RIF)並びにciprofloxacin(CPFX)耐性菌の出現頻度を検討した。その結果、EMS、MNU、BCNU曝露群ではRIF耐性菌が、EMS、MNU、1,6-DNP曝露群ではCPFX耐性菌の出現頻度が増加した。RIF耐性菌ではその90%以上にRIF結合領域をコードするrpoBに変異が、CPFX耐性菌ではその80%にCPFX結合領域をコードするgyrAに変異が認められた。rpoBに発生した変異はRIF耐性結核菌で検出される変異と、gyrAに発生した変異は患者から分離されるCPFX耐性緑膿菌の変異と同じ変異であった。EMSで誘発したCPFX耐性菌はCPFX存在下で選択的に増殖した。 本結果は、環境や医療機関に存在する変異原物質が薬剤耐性菌を誘発することを示す。薬剤耐性菌の発生を制御する上で重要なデータと考えられる。
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