研究概要 |
昨年度の研究で、実験的に用いられる変異原物質、環境中に存在する変異原物質、変異原性を有する抗がん剤が、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)にrifampicin (Rif)あるいはciprofloxacin (CPFX)耐性を獲得させることが明らかになった。本年度はどのような機構で薬剤耐性を獲得したかを、Rif並びにCPFXの標的となる分子の遺伝子の塩基配列を解析することで明らかにした。 変異原物質に曝露後RifあるいはCPRX耐性を獲得した緑膿菌株からDNAを抽出し、Rif耐性菌についてはrpoB遺伝子を、CPFX耐性菌についてはgyrA/gyrB/parC/parE遺伝子の塩基配列を解析した。その結果、Rif耐性菌ではrpoBのコドン517, 518, 521, 531, 536にアミノ酸置換を伴う変異が発生していることが明らかになった。変異が発生しているこれらの部位はRif結合領域で、Rif耐性結核菌で高頻度に変異が認められる部位である。CPFX耐性菌では、分離した耐性株の90%以上でgyrAに変異が生じていた。gyrA変異はコドン83並びに87にのみ発生しており、いずれもアミノ酸置換を伴う変異であった。これらの変異は臨床症例から分離されるほとんどのCPFX耐性緑膿菌に発生している変異である。特にコドン83の変異は全例でACCからATCへの変異であり、臨床症例から分離されるCPFX耐性株で検出される変異と同じである。これらのことから、変異原物質は臨床的に分離されるRifあるいはCPFX耐性菌と同様の変異を誘発させ、薬剤耐性を獲得させることが明らかになった。薬剤耐性菌の発生を制御するために、細菌と変異原の接触機会をなくす/減らすことが必要であると考えられる。
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