本研究では、揮発性有機化合物(VOCs)のトルエンやホルムアルデヒドの曝露に高感受性を示した動物モデルを用いて異なる化学物質の曝露をおこない、高次機能への影響をトルエンなどと比較することで、低濃度有害化学物質の影響解明における有用性を検証し、新たなバイオマーカーを探索することを目的としている。具体的には、高次機能として免疫機能と脳内海馬の記憶・学習機能に焦点をあて、室内汚染物質として殺虫剤などに用いられている農薬を用いて脳・神経-免疫軸で神経性炎症反応およびアレルギー性炎症反応の変動を探索し、これまでのVOCの結果と感受性の観点から比較検討する。さらに、低濃度のVOC、農薬の曝露により発現の亢進や増強が見られた感受性指標についてその影響機構の解明、ヒト集団へのバイオマーカーとしての有用性・応用について検討する。 本年度は、VOCの研究で高い感受性を示した雄C3H/HeNマウスを用い、低濃度のダイアジノン投与を行い、神経-免疫軸での炎症反応の誘導について検討した。その結果、海馬における記憶情報の伝達系や神経栄養因子の関連する情報伝達系ではダイアジノン投与の影響はみられなかった。肺における炎症反応の誘導も認めなかった。しかしながら、脾臓においてTh1/Th2バランスに重要な転写因子のうちFoxp3とGATA3などの転写因子の発現抑制がダイアジノン投与群で認められた。トール様受容体TLR4の発現が正常なC3H/HeNマウスと異なり、TLR4欠陥を示すC3H/HeJマウスでは、トルエンに対する転写因子発現の応答性が低いことが明らかとなった。現在、C3H/HeJマウスにダイアジノンを投与して高次機能への影響を検索している。
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