研究概要 |
本研究では、トルエンなどの揮発性有機化合物(VOCs)の曝露に対して高感受性を示した動物モデルを用いて揮発性を有するダイアジノンの曝露をおこない、神経・免疫などの高次機能への影響をこれまでのVOCの影響と比較することで、低濃度有害化学物質の影響解明における動物モデルとしての有用性を検証し、同時に新たなバイオマーカーを探索することを目的としている。本年度は、ダイアジノンを感受性が高い乳仔期の仔マウスに投与後、昨年度よりより成長した12週齢における海馬機能への影響について新奇オブジェクト認知(NOR)テストを用いて学習行動への影響および関連する遺伝子レベルでの影響を解析した。その結果、乳仔期曝露後、12週齢の時期においてもNORテストによる認知能力の低下が認められた。遺伝子レベルの検索では、8週齢時にはCaMKIV,CREB1、神経栄養因子NGFの低下が認められていたが、12週齢時にはNGF以外では回復がみられた。免疫系の解析では、ダイアジノン投与後、12週齢時には脾臓重量、GATA3mRNA,及びTIgG1の有意な増加が認められた。肺においても炎症にかかわるTNFα,TGFβなどのサイトカイン遺伝子の増加が認められた。 以上、トルエン曝露の結果同様に、乳仔期のダイアジノン曝露は成長後の神経機能や免疫機能に影響を与えることが明らかとなり、低濃度化学物質の曝露に対する感受性期を考慮するときに、本動物モデルでの乳仔期は感受性の鋭敏な時期と考えられる。昨年の結果と合わせて考えると、ダイアジノン乳仔期曝露では、神経系への影響は8週齢時に強い反応を示したが、免疫機能では12週齢時の方がより強い影響を示し、高次機能により影響出現時期に違いがみられるという新たな知見が得られた。神経系バイオマーカー候補としては、海馬における情報伝達系の因子、神経栄養因子が挙げられ、免疫系ではIgG1抗体、Th2タイプの転写因子が挙げられる。
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