研究概要 |
【目的】飲酒習慣は動脈硬化性疾患発症に対して功罪両面の作用を示すが、高齢者での適正飲酒量に関する基準は提唱されていない。前年度の研究から、適正飲酒量以下の飲酒によるメタボリック症候群のリスクの低下が、高齢者では見られないことが明らかになった。メタボリソク症候群では肥満が中心的なリスク要因となるため、肥満と各リスク要因との関連性におよぼす年齢の影響をさらに検討した。【方法】健康診断の結果を用いて飲酒と動脈硬化リスク要因(特に血糖値および血中コレステロール値)との関連性を比較した。【結果】飲酒者では非飲酒者に比べてヘモグロビンAlc(HbAlc)は有意に低く、飲酒とHbAlcとの関連性は肥満者においても非肥満者と同様に認められた(Obesity Facts 2012,5:60-67)。一方、飲酒者では非飲酒者に比べてLDLコレステロールが低くHDLコレステロールが高く、その結果LDL/HDL比(動脈硬化指数)が低かった。これらの飲酒と血中コレステロールとの関連性は肥満者では非肥満者に比べて有意に弱かった(Eur J Clin Invest 2012,42:179-185)。肥満者では血糖値、中性脂肪値、LDLコレステロール値の上昇が認められるが、肥満指数(body mass index(BMI)、腹囲/身長比)とHbAlc、中性脂肪、LDLコレステロールとの関連性は高齢者では若年者に比べて弱かった(Diabetes Care 2012,35:175-177)。【結論】飲酒によるLDLコレステロール低下作用およびHDLコレステロール上昇作用は肥満者で減弱することが示唆された。そして肥満と高血糖、高LDLコレステロールとの関連性は高齢者で減弱することが示唆された。一般に高齢者では肥満者の割合が低下することも考慮に入れると、高齢者では飲酒と動脈硬化との関連性への肥満の影響は少ないことが推測される。
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