研究概要 |
研究協力者の研究室にて血清サンプル中の脂肪酸組成及び肥満・代謝関連バイオマーカー(アディポネクチン、レプチン、インスリンなど)を測定し、これらを生活習慣調査・食生活調査・健康診断のデータと連結し、解析用データベースを作成した。統計解析を行い、インスリン抵抗性マーカーとしての血清C-ペプチドについては、リノール酸が負の関連を、ステアリン酸・パルミチン酸・ジホモγリノレン酸が正の関連を示すことを論文にまとめた。酸化的遺伝子損傷のマーカーである尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン値は、n-3系多価不飽和脂肪酸との正の関連を認めた一方、n-6系多価不飽和酸とは負の関連を認めることを明らかにした。また、新たな職域集団における栄養疫学調査を実施し、約1,100名から食生活データとともに血清サンプルの提供を受けた。この調査データから、脂肪酸摂取と糖代謝との関連を調べ、n-6系多価不飽和脂肪酸(リノール酸)やオレイン酸の摂取が糖代謝に予防的に関連していることを明らかにした。一般集団から得られた、脂肪酸と疾病早期バイオマーカーに関する一連の研究成果により、生活習慣病発症に関わる各種病態に、脂肪酸組成及びその規定要因である脂肪酸の食事摂取や酵素が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。リノール酸などn-6系不飽和脂肪酸を含め、植物由来の脂肪酸の予防的役割を示唆するデータが得られた点は予防医学上の意義がある。循環器疾患予防において従来、n-3系多価不飽和脂肪酸は予防的に働くと考えられてきたが、近年、否定的なデータも出されており、その理由のひとつとして酸化ストレスを高めるといった機序が関与しているのかもしれない。本研究の成果を踏まえ、今後、糖尿病など疾病リスクとの関連を解明するための縦断研究を計画している。
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