前年度までの研究で高齢者の摂食嚥下障害の原因は嚥下反射に関与するTRPV1受容体のセルセンシング不全であることがわかった。したがってTRPV1の機能を回復させることが、高齢者の嚥下障害の改善に重要である。しかしながらTRPV1の機能を高齢者のコンプライアンスよく回復させる方法はこれまでなかった。今回我々はTRPV1受容体の応答を増強する物質を探索的に調査した。探索の結果、赤ワインポリフェノールにTRPV1受容体の応答を増強させる作用があることを見出した。そこでその赤ワインポリフェノールのTRPV1マウス後根神経節にパッチクランプ法を適用し、その機序は赤ワインポリフェノールのカプサイシン惹起TRPV1応答の増強作用にあることを解明した。マウスの後根神経節のニューロンをを急性単離し、パッチクランプ法ホールセルモードで膜電位固定(VH=-60mV)でのカプサイシン、赤ワインポリフェノールの惹起電流を観察した。マウス後根神経節の単離ニューロンにパッチクランプ法ホールセルモードを適応し、膜電位を-60mVでクランプした状態でカプサイシンを投与したところ下向き電流が惹起された。それにカプサイシンと赤ワインポリフェノールの混合液を投与したところ、カプサイシンによって惹起された下向き電流が劇的に増強された。それらに対して、これらの反応が本当にTRPV1を介しているかどうかTRPV1選択的アゴニストであるカプサゼピンを同時投与して調べたところ全ての電流が抑制された。このことより、赤ワインポリフェノールは嚥下障害高齢者のTRPV1機能不全を回復する可能性が示唆された。
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