前年度までの一連の研究より高齢者の嚥下反射の遅延を回復させるには、末梢神経機構だけでなく嚥下反射を制御している上位中枢である島皮質関連脳領域を賦活させること肝要であることを見出した。そこで島皮質関連脳領域を刺激する方法を探索的にスクリーニングする方法として、気道防御反射衝動を測定する方法を開発。その方法の検証として、加齢と誤嚥性肺炎患者での気道防御反射衝動の変化調べた。すると衝動系は確かに加齢のみによっても多少低下するが、誤嚥性肺炎患者になるとさらに大きな低下をもたらすことが判明した。したがって、気道防御衝動系の検査は嚥下反射に関与する島皮質関連脳領域刺激法を探索的に調べるよい方法であることが示唆された。この方法を用いた知見よりさまざまなセルセンシング刺激法を見出し、誤嚥性肺炎患者の絶食から食事再開をする時の摂食嚥下機能回復プロトコールを作成した。重症の誤嚥肺炎患者が入院したときは当然のごとく絶食であるが、抗生剤治療しある程度回復し経口摂取を開始するときに安易に食事を開始すると再誤嚥し、再び誤嚥性肺炎となってしまう。そこで絶食時から嗅覚刺激、温度覚刺激、口腔痛覚刺激を集約することにより嚥下反射関連大脳皮質領域を効率よく賦活化させる経口摂取開始プロトコールを開発したのである。東北大学病院老年科に入院した患者においてこの経口摂取開始プロトコールを使用した場合とそうでない場合を比較すると、本プロトコール使用により経口摂取開始一か月間の再誤嚥性肺炎の頻度が約3分の1に抑えられることが分かった。したがってアロマチップを用いた嗅覚刺激、TRPV1やTRPM8アゴニスト含有食品による温度覚刺激、口腔ブラッシングによる口腔痛覚刺激を組み合わせた包括的嚥下リハビリテーションは高齢者の摂食嚥下障害を改善し、誤嚥を予防し経口摂取を可能にする高齢者人間性再生方策となる可能性が高いものと考えられる。
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