本研究は慢性疲労症候群(以下CFS)患者に対して、『漢方治療と認知行動療法を融合した集学的な治療戦略を確立』するための研究である。漢方治療に関しては、CFS患者29人を対象に、「証」の推移と治療効果を検討した。初診時の主証は、虚証群13人、実証群16人で、虚証群の罹病期間は、実証群に比して長い傾向を示した。治療開始後3ヶ月間に、証の変化により処方を変更した者は、虚証群62%、実証群56%で、両群間に有意差はなかった。治療6ヶ月後のPSスコアは、両群とも初診時に比して有意に低い値を呈したが、両群間に有意差はなかった。しかし、治療6ヶ月後のPSスコアが治療目標の2以下になった者の割合は実証群で高い傾向を示した。治療の有効性は、虚証群77%、実証群75%で両群間に差は認めなかった。CFS患者の証は多様であり、弁証論治に基づいた漢方治療が有用であること、また、経過中に証が変化する場合も多く随証応変に基づく治療が必要であること、そして、初診時に実証を呈する者の方が、比較的短期間での漢方治療効果が期待できることが示唆された。「慢性疲労症候群のための認知行動療法」に関してはCFS患者13名(中断患者3名含む)を対象として検討した。結果、CFS患者は、「認知的特徴」、「行動的特徴」、「認知・行動意識化の程度」という3次元の軸によってタイプ分けできる可能性が示唆された。また、タイプに応じた認知行動療法は、CFS症状維持のメカニズムに対する患者の理解を促し統制感を高めていることも示された。これらの結果は、患者のタイプに応じた技法を選択適用するといった認知行動療法の弾力的実践と個別的適応の重要性を示唆していると考えられた。
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