研究課題
本研究では、肝癌細胞の治療抵抗性の分子基盤の一つである"細胞死抵抗性"を担う責任分子群を同定することを目標としている。責任分子群の同定には、遺伝子・蛋白質発現に加え、蛋白質機能解析が不可欠であるが、我々は機能を制御する翻訳後修飾、とりわけ燐酸化に注目した。具体的には、肝癌細胞株に細胞死を誘導する酸化ストレスを加え、刺激前後のcell lysateを持ち2次元デイファレンシャル電気泳動を施行し、蛋白質スポットから質量分析装置にて燐酸化蛋白質を同定している。酸化ストレスに最も抵抗性を示したHepG2細胞では、刺激後に有意に変動する燐酸化スポットが約30個認められ、多くは細胞骨格や分子シャペロン関連蛋白質であった。その中でnucleophosmin(NPM)に注目した。NPMは核小体に豊富に存在する燐酸化蛋白質で、細胞増殖、アポトーシスに関与するとされている。我々はネットワーク解析から、NPMが細胞死誘導遺伝子の発現を抑制していることを明らかにした。そこでHepG2細胞でsiRNAにより発現を低下させると、細胞死抵抗性が減弱した。また、強制発現系クローンでは野生型に比べて細胞死刺激に"より"抵抗性を示した。一方、ヒト肝癌組織では、NPMならびにp-NPM(燐酸化NPM)は非癌部に比べ発現が有意に亢進し、p-NPMは腫瘍径の大きい例、多結節例、単結節周囲増殖型/多結節癒合型で癌部の発現が高い傾向にあった。さらにp-NPM高発現症例では、再発までの期間が有意に短縮されていた。このようにNPM、p-NPMとヒト肝癌組織の形質との間に密接な関連が示唆された。今後、NPM以外で燐酸化が有意に変動している蛋白質を対象とし、機能制御や肝癌組織における発現動態を解析し、細胞死抵抗性を担う候補責任分子の更なる絞り込みを行い、それら分子群の階層性を明らかにしていく予定である。
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