研究課題
本研究では、肝癌細胞の治療抵抗性の分子基盤の一つである"細胞死抵抗性"を担う責任分子群を同定することを目標としている。責任分子群の同定には機能解析が不可欠であるが、我々は機能を制御する翻訳後修飾、とりわけ燐酸化に注目した。そこで、肝癌細胞株に細胞死を誘導する酸化ストレスを加え、刺激前後のcell lysateを持ち2D-DIGEを施行し、蛋白質スポットから質量分析装置にて燐酸化蛋白質を同定した。酸化ストレスに最も抵抗性を示したHepG2細胞では、刺激後に有意に変動する燐酸化スポットが約30個認められ、多くは細胞骨格や分子シャペロン関連蛋白質であったが、その中でnucleophosmin(NPM)に注目した。NPMは核小体に豊富に存在する37kDaの燐酸化蛋白質で、(1)細胞周期関連分子の抑制を介して細胞増殖の亢進する、(2)p53の活性化を抑えアポトーシスを抑制する、(3)癌細胞には高発現で癌遺伝子としての働きが示唆されている等の報告がある。さらにネットワーク解析から、NPMが細胞死誘導遺伝子の発現を抑制することを明らかにした。そこでHepG2細胞にsiRNAを導入してNPMの発現を抑制すると、細胞死刺激であるH2O2に対する抵抗性が減弱した。次に内因性のNPMの発現が低い肝癌細胞株Hep3B細胞を見出し、ヒトNPM発現ベクターを導入することでNPM強制発現Hep3B細胞株(以下Hep3B-NPM)を樹立した。H2O2以外の細胞死刺激として、肝癌の分子標的治療薬であるsorafenibにて刺激すると、Hep3B-NPM細胞ではNPMの燐酸化は抑制され、生細胞は減少した。NPMの燐酸化が細胞死抵抗性を担うか否かを解析するために、現在NPMの燐酸化部位を変異させた非燐酸化型NPMベクターを作成し、非燐酸化型NPMを恒常的に発現するHep3B細胞株の樹立を行っている。一方、Hep3B-NPM細胞は親株Hep3B細胞に比べて増殖が早く、NPMが細胞増殖にも関与していることが確認された。そこでHep3B細胞とHep3B-NPM細胞をNOD/SKIDマウスの皮下に注射すると、40日後、親株であるHep3B細胞に比べて、Hep3B-NPM細胞は有意に大きな腫瘍塊を形成した。
2: おおむね順調に進展している
候補責任分子の絞りこみを目標として、現在NPMを始めとして特定の分子の機能をsiRNAや強制発現系、あるいは燐酸化部位を変更した非燐酸化型発現ベクターを作成している。燐酸化が蛋白質機能を制御している分子の場合、非燐酸化型発現ベクターを用いた検討はそれを裏付ける重要な知見となることが期待される。
今後、NPM以外で燐酸化が有意に変動している蛋白質を対象とし、機能制御や肝癌組織における発現動態を解析し、細胞死抵抗性を担う候補責任分子の絞り込みを行い、それら分子群の階層性を明らかにしていく予定である。
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