研究課題
以前の研究で我々は、圧負荷に伴う心不全モデルにおいて、心臓におけるp53依存性老化シグナルが、心不全の発症に重要であることを報告した。さらにその発症には、全身のインスリン抵抗性の増悪による過剰なインスリンシグナルが、重要であることも明らかにした。本年度は、心不全に伴うインスリン感受性の増悪機構について解明した。まず、心不全の発症に伴って、内臓脂肪組織における脂肪分解亢進による重量の減少が認められることがわかった。これらに伴って、脂肪組織のp53依存性老化シグナルの活性化とそれに伴う炎症亢進が認められ、インスリン抵抗性が惹起されていた。心不全に伴うインスリン抵抗性の増悪は、交感神経系の遮断や中枢から脂肪組織への遠心性繊維の切断によって改善したことから、心不全時には、心臓から中枢へのシグナルを介して、交感神経系の亢進がおこり、その増悪に関与していることがわかった。さらに、交感神経系の亢進にともなう脂肪分解を薬理学的に抑制すると、脂肪組織におけるp53依存性老化シグナルの活性化とそれに伴う炎症亢進が改善していたことから、脂肪分解による遊離脂肪酸がp53の活性化を惹起し、炎症を亢進させていることが予想された。実際、脂肪組織における脂肪分解酵素の欠失マウスや脂肪組織におけるp53欠失マウスでは、心不全に伴うインスリン抵抗性の増悪が認められなかった。以上の結果より、心不全に伴う心臓におけるp53依存性老化シグナルは、交感神経系を介して脂肪組織のp53依存性老化シグナルを活性化し、インスリン抵抗性や心不全の増悪に関与しているものと考えられた。さらに、脂肪融解によるp53の活性化には、遊離脂肪酸による酸化ストレスとそれに伴うDNA障害が関与していた。また、p53活性化による炎症の亢進には転写因子であるNFkBがの活性化が関与していることも明らかとなった。本研究結果は、今後、脂肪老化制御による新たな心不全治療の開発に繋がっていくものと考えられた。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
J Clin Invest
巻: 120 ページ: 1506-1514
DOI:10.1161/CIRCRESAHA.109.214346
Circulation
巻: 122 ページ: 891-899
J Mol Cell Cardiol
巻: 49 ページ: 113-120
Circ J
巻: 74 ページ: 2527-2533