研究概要 |
血管壁における酸化ストレスの増加は動脈硬化を助長し虚血性疾患の原因となるのみならず,虚血性病態を修飾する重要な因子と考えられる.我々は,脳虚血マウスモデルを用いて,血管壁酸化ストレスの役割を解析している.我々は,培養・内皮細胞ならびに平滑筋/周皮細胞において,Nox4と呼ばれる活性酸素種産生酵素が発現していることを明らかにしたが,個体では脳梗塞時,梗塞巣周囲領域の血管壁細胞に限局してNox4が非常に強く発現誘導されることを見いだした.その意義を明らかにするために,内皮細胞特異的Nox4過剰発現マウスを作製し,表現型変化とそのメカニズム解析を行った.Nox4過剰発現マウスでは脳梗塞サイズが有意に拡大した.Nox4過剰発現マウスの脳ではAngiopoietin-2(Ang-2)の産生が有意に増加しており,Nox4過剰発現・内皮細胞ではAng-2の発現が有意に上昇することから,脳内におけるAng-2の産生増加は内皮細胞に由来すると考えられた.Ang-2は脳微小血管において周皮細胞から分泌されるAng-1と拮抗し,内皮細胞と周皮細胞の相互作用を減弱させる.このことは周皮細胞によって制御される内皮細胞による血液脳関門の脆弱化を意味する.これに一致して,Nox4過剰発現マウスの脳梗塞周囲領域では,血管壁の漏出が有意に増加していた.また周皮細胞によるAng-1の内皮細胞への作用減弱により,内皮細胞におけるAkt→eNOS活性化シグナルが抑制されることも見いだした.eNOS活性の抑制は,脳梗塞病態のさらなる悪化に寄与すると考えられた.また,脳血管内皮細胞を用いたマイクロアレイの検討から,Nox4を過剰発現させた内皮細胞では,血液凝固を亢進させる分子群の発現が有意に亢進することや,細胞外マトリックスを分解するメタロプロテアーゼの発現が上昇することなどを同定しており,Nox4過剰発現マウスにおける脳梗塞病態の悪化に関与する可能性が高いと考えている.一方で,Nox4過剰発現内皮細胞ではPDGF-Bの発現が増加するなど,成熟した血管新生を促す可能性も示唆されており,Nox4の生理的意義を明らかにすべく更なる分子メカニズムの解析を行っている.さらに平滑筋・周皮細胞特異的Nox4過剰発現マウスを作製し,脳梗塞における表現型変化の解析も開始しており,興味深い結果が得られつつある.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の重要なテーマであるNox4研究は世界的な競争が激化しており,論文発表を急ぐ必要がある. 我々は,心血管病のうち,とくに脳血管疾患(脳梗塞)を実験モデルとして,血管壁レドックス応答とその意義について研究を行っているが,内皮細胞のみならず,周皮細胞(ペリサイト)/平滑筋細胞のレドックス応答についても厳密に議論すべきことが我々の研究から明らかとなってきている.さらに,内皮細胞レドックス応答の立場から,脳内細胞間ネットワーク(内皮細胞,周皮細胞,アストロサイト,神経細胞=Neurovascular Unit)による,脳機能遂行とその障害,さらには障害後の再生機構を含めた形で,血管壁細胞レドックスの意義を考えていく必要がある.
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