1.高感度血中及び組織中アデノシン測定法の確立 LC-MSを利用した血中での高感度アデノシンの測定系確立に成功し、蛋白除去系の改良と感度のより高い質量分析計を使用することにより測定法の高感度化・実用化を目指した。アデノシンの流出を伴うと考えられるイヌ虚血心モデルにおいて、冠静脈からの採血を行いアデノシン濃度の測定を行った。初期の測定では採血法による誤差が多くみられた。そこで、採取サンプルに加える酵素阻害剤の最適化を行い、特に低濃度領域での再現性の良い測定結果が得られるようになった。 2.アデノシン関連遺伝子群の発現解析・遺伝子多型の検討 正常人もしくは心疾患患者にインフォームドコンセントを行い、心筋及び血液サンプルを収集し、アデノシン代謝関連遺伝子群の発現解析及び遺伝子多型解析を行った。11例の重症心不全患者の遺伝子発現解析により、6種のアデノシン代謝酵素のうち3種の発現上昇、2種の発現低下を認めた。発現変化の認められた酵素の多型解析を行い、疾患と相関する多型の同定を行った。現時点では、有意に相関する遺伝子多型及びハプロタイプは同定できなかったが引き続き解析を継続する。 3.各種実験モデルおよびヒトにおける血中におけるアデノシンレベルの測定 ラット培養心筋細胞、マウス心不全モデル、イヌ虚血再灌流モデルにおいて形態変化、収縮性、細胞死などの病態表現型とアデノシン濃度の相関を解析し、心筋ストレス時におけるアデノシンの重要性を明らかにした。さらに、コホート研究をすすめる集落からアデノシン測定に関する同意、倫理委員会の承認を得て採血を行った。その結果、血中アデノシン濃度が500pmol/mL以上の健診受診者において、アデノシンはBNP、アディポネクチン、NOxと負の相関を示し、血糖、HbA1cと正の相関を示したことから、アデノシンが心不全や糖尿病のマーカーとなることが考えられた。
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