研究課題
グレリンは主として胃内分泌細胞で産生されるGrowth hormone secretagogue受容体(GHS-R)の内因性リガンドである。その発見以来成長ホルモン分泌亢進や摂食、エネルギー代謝に焦点が当たってきているが、生体における役割はまだまだ不明な点が多い。われわれは循環器疾患に対する治療効果を検討し、グレリンの慢性投与が肺高血圧モデルや心筋梗塞モデルにおいて病態を改善することを見出している。このことは、それまで摂食促進ホルモンと考えられてきたグレリンが、循環器系にも作用を及ぼしているという意外な事実を示すものである。加えて、心筋梗塞の直後または2時間後にグレリンを単回皮下注射することで、急性期の致死性不整脈が減少し急性期死亡が明らかにに抑制されることを発見した。さらに、これらの動物を慢性期(2週間)まで追跡すると、生存した動物の中でもグレリン投与したものは、対照群と比較して明らかに心機能が改善していた(心拍出量(mL/min);シャム手術群56.2+/-1.5,対照薬投与心筋梗塞群36.8+/-2.6,グレリン投与心筋梗塞群48.8+/-4(p<0.05 vs 対照薬投与群))。次に心臓交感神経遠心路の電気活動記録からこれらの動物における交感神経活性を検討したところ、対照群ではシャム手術群に比較して交感神経活性が2倍に亢進していたが、グレリン投与群ではシャム手術群と同程度まで抑制されていた。この事実は、心筋梗塞急性期にグレリンを単回投与すると、慢性期まで心機能改善と交感神経活性抑制をもたらすという驚きの結果である。さらにその機序を解析中であるが、これらの研究は、グレリンの急性心筋梗塞と心不全における治療的意義を明らかにしたものであり、循環器疾患の治療薬としてグレリンの有用性が示唆されている。
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