2型糖尿病では、食後のインスリン分泌の増加が障害されるとともに、グルカゴン分泌の抑制も障害されている(Muller WA et al. N Engl J Med 1970)。しかしながら、後者のメカニズムに関しては良く分かっていない。申請者はグルカゴン遺伝子の転写を調節する転写因子ATF3とFoxO1に注目し、主にin vivoの解析を行った。まず、Glucagon-creマウスとATF3 floxマウス、あるいはFoxO1 floxマウスを交配し、それぞれα細胞特異的ATF3ノックアウトマウス(aATF3 KO)とα細胞特異的FoxO1ノックアウトマウス(aFoxO1 KO)の作製を試みた。しかしながらこれらのマウスの空腹時血糖値、随時血糖値に異常は認められず、血中グルカゴン濃度も正常であった。また、糖負荷試験やインスリン耐性試験においてもコントロール群と有意差がなかった。そこで、組織免疫染色と定量RT-PCR法を用いてα細胞におけるATF3やFoxO1のノックアウト効率を調べたが、効率は50%以下であった。そこで、aATF3 KOとaFoxO1 KOの解析は諦め、代わりに慶応大学の中江博士から御供与頂いたRosa26-flox-stop-flox-FoxO1マウスとGlucagon-creマウスを交配し、α細胞特異的FoxO1ノックインマウスを作製した。このマウスでは血中のグルカゴン値が上昇しており、空腹時血糖に変化はないが随時血糖が有意に高値を示した。また、耐糖能も有意に悪化していた。従って、α細胞におけるFoxO1がグルカゴン遺伝子転写調節を介して、全身の糖代謝調節に関わっている可能性がin vivoでも証明された。一方、ATF3に関してはPdx1-creマウスと交配することで、膵臓と視床下部でATF3がノックアウトされるマウスを作成した。このマウスは摂食量の低下とエネルギー消費の亢進から体重が痩せ、その影響でインスリン感受性が高まって耐糖能が改善したが、膵臓においてはβ細胞、α細胞共に形態学的にも機能的にも変化が認められなかった。従って、α細胞機能におけるATF3の寄与は少ないと考えられた。
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