高度に機能分化したインスリン分泌臓器である膵β細胞の遺伝子発現調節機構の特徴を明らかにするために、ラット膵β細胞株INS-1D細胞(Dr Wollheim、及び関根信夫博士より供与)から、Vector-capping法を用いて完全長cDNAライブラリーを作成した。ランダムに拾った約2万クローンについて、5'-側one passシークエンスを行い、データベースサーチを行った。その結果、新規転写産物と思われるもののほか、既知遺伝子だが既報より500bp以上上流に転写開始点(TSS)が同定されたものも存在した。そのうちいくつかは、ヒト、マウスで報告されている転写開始点と一致したことから本来の転写開始点と思われるが、いくつかは新規のalternative TSSの可能性が考えられたので、その5'上流域1-3kbpを「新たな転写調節領域候補」として、in silico解析による転写調節エレメント抽出を行い、in vitroプロモーターアッセイによる機能解析の系を準備している。また前記で得られた新規クローンのうち、500bp以上のインサートをもちながら明らかなORF(open reading frame)を持たない「non-coding RNA(ncRNA)」候補に注目し、さらに系統的な解析を進めた。配列特異的なsiRNAを合成し、INS-1細胞へ導入してこのncRNA候補の発現を抑制するとグルコース反応性インスリン分泌に変化がみられたものもあった。この機能的ncRNA候補について、ノックダウンによる網羅的な遺伝子発現プロファイルへの影響を検討するとともに、内因性の発現調節機構などの解析を進めている。
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