研究概要 |
【目的】本研究ではメタボリックシンドロームの成因を、関連する細胞群の代謝変調(セルメタボリズムの変調)という新しい観点から捉え、また代謝変調の原因を心血管ホルモンならびに細胞老化と関連づけて考えることにより、新たな治療オプションを探索する。[方法]本年度は血管拡張因子であるナトリウム利尿ペプチド(NP)/cGMP/cGKカスケードと、老化抑制因子FoxO1, SIRT1の細胞代謝における意義を検討した。[結果]cGK-Tgマウスは標準食においても体重が減少して耐糖能良好であり、呼気ガス分析では酸素消費と脂質燃焼の亢進を認めた。電子顕微鏡を用いた観察ではcGK-Tgマウス骨格筋において、巨大なミトコンドリアを高密度で認めた。マクロファージ特異的恒常活性型FoxO1トランスジェニックマウスを高脂肪食下におきエネルギー代謝を検討したところ、同マウスではインスリン抵抗性が認められ、脂肪組織のstromal vascular fraction(SVF)での遺伝子発現にコントロールマウスとの差が確認された。我々がヒトES,iPS細胞からの誘導に成功した(ATVB 58:710 2009)血管内皮細胞と、より成熟した成人血管内皮細胞の細胞代謝をマイクロアレイなどのオミクス解析を駆使して比較したところ、両者ではいくつかの遺伝子発現が異なり、その一つが老化抑制遺伝子Sirt1であった。Sirt1が高発現であるヒトES細胞由来内皮細胞にSirt1のsiRNAを投与すると両者の細胞増殖能・内皮欠損回復能・管腔構造構築能の差は消失し、Sirt1阻害薬であるSirtinolを用いた実験でも同様の結果が得られた(Atherosclerosis, in press)。[考察]血管拡張シグナルであるNP/cGMP/cGKカスケードは骨格筋ミトコンドリアを増加させ脂質燃焼を亢進させることで、過栄養に拮抗する細胞代謝をもたらすと考えられた(Diabetes 58:2880 2009)。インスリンシグナルに関連した老化抑制因子FoxO1は高脂肪食に伴う脂肪組織リモデリングとインスリン抵抗性の発症に関与し、また、血管内皮細胞老化に関連した老化抑制因子Sirt1は血管内皮細胞代謝ならびに内皮機能に影響を与えると考えられた。これらの結果を踏まえ、今後とも細胞老化に伴う細胞代謝の変化がメタボリックシンドローム発症に関与する可能性を検討し、内分泌学的、抗加齢医学的理解に基づくメタボリックシンドローム新規治療法の開発を目指す。
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