研究課題
GATA1は赤血球や巨核球、好酸球、肥満細胞に発現し、それぞれの分化に重要な役割を担っている。GATA1は、機能の異なる2つの亜鉛フィンガー(N末端側、C末端側をそれぞれN-フィンガー、C-フィンガーと呼ぶ)を持ち、C-フィンガーはDNA上のGATAコンセンサス配列への結合に必須であること、N-フィンガーは転写共役因子FOG1との結合およびDNAとの結合安定化に重要であることがわかっている。遺伝子相補レスキュー法により、FOG1との相互作用が減弱化するN-フィンガー変異体であるGATA1V205Gのみを発現するトランスジェニックレスキュー個体を産出させ、変異に起因する表現型の解析を行った。その結果、GATA1とFOG1の相互作用は、一部の赤血球膜蛋白質の発現制御を介して赤血球の形態形成と膜の恒常性維持に働き、同相互作用を欠失したGATA1では、球状赤血球症による溶血性貧血を惹起することを明らかにした。また、GATA1とFOG1の相互作用を必要としない膜蛋白質遺伝子の発現制御領域上においても、GATA1とFOG1の共局在している場合があることを明らかにした。このことは、GATA1とFOG1の複合体形成とGATA1機能におけるFOG要求性は必ずしも一致しないことを示唆している。赤血球膜の恒常性維持にGATA1が関与しているという報告はこれまでになく、本解析により初めて明らかにすることができた。原因遺伝子が特定されていない遺伝性球状赤血球症の中には、GATA1の機能異常が関与した症例が存在している可能性が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
転写因子GATA1の質的、量的な異常が、赤血球や巨核球前駆細胞の増殖、分化、細胞死制御のバランスをかく乱すること、そのかく乱の程度により、個体が様々な表現型を呈することがわかってきた。
一つの機能タンパク質の異常から複数の疾患が発症しうることが分かってきた。したがって、本研究を遂行するためには、GATA1の構造異常と発現量異常を組み合わせた疾患モデル動物を作成し、丹念に解析を行っていく必要がある。そこで、発現量のことなる複数のトランスジェニックマウス系統を比較検討して、量的質的な変化と標的遺伝子の発現プロファイルを、個体レベルで網羅的に検討し、疾患発症のメカニズムを探索することを考えている。
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