ポリコーム複合体PRC2の構成分子であるEzh2遺伝子をノックアウトしたマウスの解析から、ポリコームによる造血幹細胞のエピジェネティック制御の様式が胎仔肝と骨髄において異なることが示された。すなわち、増幅期にある胎仔肝の造血幹細胞はPRC2複合体のEzh2への依存性が強く、Ezh1の関与は低い。一方静止期にある骨髄の造血幹細胞ではEzh1に加えてEzh1とPRC1の機能が高まることが明らかとなった。また、ピストン脱メチル化酵素の発現解析を造血系細胞において行った。その結果Fbx110(H3K36me2の脱メチル化酵素)の発現が未分化造血細胞に限局していることが明らかとなった。Fbx110はPRC1と会合しうることが最近報告されたことから、造血幹細胞に重要な機能が予想された。そこで造血幹細胞への強制発現系を用いた解析を行い、Fbx110が造血幹細胞の機能維持に関わることを確認した。この機能はヒストンH3K36me2の脱メチル化を介するものであり、PRC1機能との協調作用も示唆された。また、RNA結合蛋白Fus/TLSも造血幹細胞の維持に必須であることを確認したが、その機序はいまだ不明のままである。白血病遺伝子による造血前駆細胞の白血病幹細胞へのリプログラミングは、自己複製能の再獲得という観点から、体細胞の多能性幹細胞へのリプログラムと非常に似た現象と言える。白血病幹細胞へのリプログラミング過程におけるBmilの役割を検討した結果、Bmilによる一連の癌抑制遺伝子の発現抑制が白血病幹細胞の形質獲得を完遂する上で重要であることが示された。
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