研究課題
これまでの骨髄不全患者を対象としたPNH型血球のスクリーニング過程で、一部の典型的な自己免疫性骨髄不全症例ではT細胞にのみPNH形質の血球がみられることが明らかになった。PNH型のT細胞が出現するメカニズムを明らかにすれば、PIG-A遺伝子変異を持つ造血幹細胞の増殖メカニズムを解明できる可能性が高いと考えられた。そこて、造血抑制因子であるTGF-βのT細胞増殖に及ぼす影響を調べたところ、TGF-βは抗CD3抗体と抗CD28抗体で活性化した正常T細胞の増殖を抑制したが、同じ患者のPNH型T細胞の増殖は抑制しなかった。このため、活性化されたT細胞にはGPI-アンカー型のTGF-βレセプターが発現しており、PNH型T細胞はこのレセプター発現を欠くためにTGF-βによる抑制がかからないと考えられた。このGPI-アンカー型膜蛋白を同定するため、活性化したT細胞をPIPL-Cで処理し、上清中に存在するGPI-アンカー膜蛋白を、TGF-βを結合させたビーズと反応させたのち、pHを下げることにより、TGF-βと結合したGPI-アンカー膜蛋白を解離させ、その蛋白をSDD-PAGEで電気泳動したところ、いくつかの特異的なバンドが検出きれた。現在このバンドを切り出し、質量分析にかけることによって、TGF-βが結合するGPI-アンカー型レセプターの同定を試みている。一方、骨髄不全の中で13q-の染色体異常を示す例は免疫抑制療法に反応して改善しやすく、また高率にPNH型血球を有することを我々は以前から報告してきた。最近、13q-単独の異常を示す骨髄不全例を検討したところ、PNH型血球が100%陽性であることが明らかになった。このため、免疫病態による骨髄不全では、骨髄に潜在する13q-造血幹細胞とPIG-A変異幹細胞を選択的に増殖させる共通のメカニズムが存在すると考えられた。13q-で欠失している遺伝子領域には、TGF-βによる抑制性シグナルの介達に必要なRB遺伝子が存在していることから、PIG-A変異白血病細胞株においてTGF-βがRB蛋白のリン酸化にどのような影響を及ぼすかを検討している。
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