研究課題
平成22年度の研究により、造血幹細胞抗原に特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)は、再生不良性貧血(再不貧)の発病には関与しているものの、再不貧の病像を形成しているのは、CTLの出現によって過剰産生される造血抑制性サイトカインであることが示唆された。この造血抑制性サイトカインは、GPIアンカー膜蛋白(GPI-AP)を介して造血幹細胞を負に調節していると考えられることから、GPI-APのTGF-βレセプターを同定するため、白血病細胞株K562及びKGlaにTGF-βを結合させたのちPIPL-Cで処理し、GPI-APレセプター/TGF-β複合体を抗TGF-β抗体を用いて沈降させた。この沈降物をSDS-PAGEで展開後、銀染色により検出された複数のバンドを質量分析にかけたが、挟雑蛋白の量が多く、GPI-APレセプターの同定には至らなかった。このため、ケラチノサイトにおいて、TGF-βレセプターのco-receptorとして働くことが知られているCD109に着目した。CD109を発現しているTF-1のPNH型細胞を作製し、TGF-βによる増殖抑制効果を調べたところ、PNH型TF-1細胞では野生型に比べてTGF-βに対する感受性が低下していた。TF-1をPIPL-Cで処理することにより得られた上清をTGF-β結合カラムに通し、カラムから溶出させた蛋白をウェスタンブロッティングで検索したところ、CD109の存在が確認された。CD109siRNA導入によりCD109を欠落させたTF-1細胞では、PNH型TF-1細胞と同様にTGF-βによる抑制作用が低下しており、SMAD2のリン酸化の程度も減弱していた。CD109は健常者骨髄中のCD34陽性細胞に発現しており、特にmegakaryocyte-erythroid progenitor cells とされるCD34^+CD38^+CD123^-CD45RA^-で強発現していた。したがって、CD109は、造血幹細胞においてTGF-βの増殖抑制シグナルの伝達を担っており、この発現低下が、PNH型TF-1細胞におけるTGF-β感受性低下の原因となっていることが示唆された。CD109の発現低下が、TGF-βの存在下で、静止期造血幹細胞の優先的活性化を招くか否かを検証するため、免疫不全マウスを用いた移植実験を計画している。
すべて 2011
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