新たながん免疫療法開発の目的で、がん特異的T細胞レセプター(TCR)遺伝子と、がん病変局所の高発現しているケモカインレセプター遺伝子を同時に導入した人工細胞傷害性T細胞(CTL)の抗腫瘍効果を検討し、以下の結果が得られた。 1.白血病ならびに多くの固形がんに高発現しているWT1およびAurora-A kinase特異的CTLクローンからTCR遺伝子を単離し、その発現レトロウイルスベクターを構築した。さらに、内在性TCRの発現を抑制し、効率よくTCRを発現できるsi-TCRベクターを初めて構築した。 2.WT1およびAurora-A kinase特異的TCR遺伝子導入人工CTLは、白血病細胞および肺がん細胞をHLA拘束性に傷害したが、造血幹細胞を含め、正常細胞には影響を及ぼさないことが、in vitroならびにヒト化マウスin vivo実験系で証明された。 3.肺がん細胞でのケモカィン発現を網羅的に解析したところ、CCL2が高発現されていることが明らかとなった。 4.WT1特異的TCR遺伝子とCCR2遺伝子を同時導入した人工CTLは、CCL2および肺がん細胞に対して遊走能を示し、WT1特異的TCR遺伝子単独発現CTLよりも効率よく肺がん細胞を傷害できることが、in vitroならびにin vivo実験系で証明された。 以上の結果から、がん特異的TCR遺伝子とケモカインレセプター遺伝子を同時に導入した人工CTLを用いた養子免疫療法は従来のTCR遺伝子療法に比べ、効果的であることが示された。現在、多くの悪性腫瘍に応用すべく、他のケモカインレセプター発現ベクターを構築している。
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