肺動脈性肺高血圧症(PAH)は膠原病、特に強皮症において生命予後を悪化させる重篤な臓器病変のひとつである。病態の基本は肺動脈の内腔狭窄病変であり、血管平滑筋および内皮細胞の増殖と線維化からなるリモデリングによって形成される。その機序を追究するため、血管内皮のみならず平滑筋や線維芽細胞など間葉系細胞への分化能を有する末梢血単球に着目した検討を行っている。昨年度はPAHを有する強皮症患者の末梢血単球で血管内皮への分化能が低下し、多量のコラーゲンを産生する線維芽細胞への分化効率が高いことを明らかにした。そこで、今年度は末梢血単球の遺伝子発現を網羅的に検討することで、膠原病に伴うPAH病態における単球の役割を追究することを目的とした。 背景因子を一致させたPAHを有する例とPAHのない例から末梢血CDI4+単球を分離し、PCRアレイ法を用いてケモカイン、細胞外マトリックス、TGFβ/BMPシグナル、血管内皮に関与する計318遺伝子の発現を比較した。その結果、PAH群で発現が上昇していた16遺伝子(CCL7、CCR2、CCRL1、CXCL10、IL1A、NOS3、TGFBR3、ITGA1、ITGA6、ITGB5、LAMB1、MMP15、NCAM1、THBS2、VTN)を抽出した。これら遺伝子はいずれも細胞遊走・接着に関わる既知の遺伝子クラスターに含まれており、末梢血単球が遊走や接着能の亢進を介して肺動脈局所にリクルートされ、血管リモデリングに積極的に関わる可能性が示唆された。
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