肺動脈性肺高血圧症(PAH)は膠原病、特に強皮症において生命予後を悪化させる臓器病変である。病態の基本は肺動脈における血管平滑筋の増殖と線維化からなる血管リモデリングであるが、その詳細な機序は明らかでない。本研究では血管内皮、平滑筋、線維芽細胞への分化能を有することが最近明らかにされた末梢血CD14+単球と血管内皮前駆細胞に注目し、それらのPAH病態への関与を追究した。これまでの検討から以下の点が明らかにされた。 1.強皮症患者の末梢血CD14+単球は血管内皮への分化能が低下し、コラーゲン産生細胞への分化効率が高かった。また、PAHを有する例で特にその傾向が顕著であった。 2.末梢血CD14+単球における遺伝子発現プロフィールを遺伝子アレイによる網羅的解析を行ったところ、PAHあり強皮症でPAHなし強皮症、健常人に比べて発現が上昇していた遺伝子としてCCR6、LTBP-1、OCLN、発現が低下していた遺伝子としてCCL5、PIGFが同定された。これら遺伝子はいずれも細胞遊走、血管内皮の維持、線維化に関わる。 3.PAHを有する強皮症患者の末梢血中の血管内皮前駆細胞はPAHなし強皮症、健常人に比べて少なく、成熟血管内皮細胞への分化能も障害されていた。 強皮症では血管内皮前駆細胞による脈管形成機転が障害されており、傷害血管の修復が十分におこらない。そのため骨髄から血管修復作用を有する単球が動員されているが、それら細胞はむしろ線維化を促進することで血管リモデリング進展に積極的に関わる可能性が示唆された。本研究成果は、末梢血単球を標的としたPAHに対する新たな治療ストラテジーへの応用につながる。
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