HIV/AIDS時代にあり、クリプトコックス感染症は、死亡率も高くきわめて重要な日和見感染症である。さらに、肺クリプトコックス症は健常人にも発症する可能性のある深在性真菌症である。これまで、病原因子の基礎的な検討は行われているもの、大規模な臨床分離株を用いた包括的な病態解析に関する知見は少ない。本研究では、わが国のクリプトコックス症について、臨床分離株の真菌学的背景と臨床病態を調査した。 まず、当科に保存する豊富な臨床分離クリプトコックス株からgDNAを抽出し、血清型と菌株同士の相同性をみるために、遺伝子学的に検討を行った。血清型確認にはPCR法を用い、ほとんどの株がα型であった。遺伝子学的疫学研究にはMLST法を用いて、全株の7つの遺伝子解析を行った。数株を除いてほとんどの菌株がVNI型(数株はVNII型)であり、韓国や中国の報告とほぼ同様の結果が得られた。Genotypeの相違(VNIとVNII)での臨床的な特徴に明らかな差はみられなかった。 次に、当科で経験された肺クリプトコックス症患者151例について臨床的な解析を行った。67例 (41.4%) は基礎疾患のない患者に発症していた。残りの84症例 (54.6%) は何らかの基礎疾患を有しており、糖尿病、血液疾患、膠原病が多かった。画像所見について、結節陰影を示す症例が多く、CNS感染症を認めない場合は、アゾール系抗真菌薬が使用されており、基礎疾患がない場合は3ヶ月、ある場合には6ヶ月の治療が行われており、良好な治療成績を示していた。わが国におけるクリプトコックス症の疫学および臨床病態を理解する上で有用な知見が得られた。
|