研究概要 |
今年度、以下のような動物実験および臨床研究に関する実績が得られた。 【動物実験】ApoE欠損マウスにインフルエンザウイルス(PR8株,5000 PFU/マウス)を経鼻感染させ、スタチン系薬(simvastatin, 0.5mg/kg/日)またはプラセボをウイルス接種の3日前・接種当日・接種3日後の3段階より開始し、同薬の連日経口投与を行った。プラセボ投与群と比較して、ウイルス接種の3日前より開始したスタチン投与群において、感染後2週間における生存率が有意に良好であった。ウイルス接種6日後―9日後の気道病理所見としてマクロファージを主体とする局所への炎症細胞浸潤の軽減が確認された。一方、健常マウスへの同ウイルス感染実験では、スタチン投与による生存率の改善は認められなかった。この結果から、生体へのスタチン効果は脂質代謝障害の病態においてウイルス感染より以前に介入することで発現する可能性が示された。 【臨床研究】構築の症例データベース(高齢者病院における入院934症例, 2000年)を用いて、インフルエンザ発症例(ワクチン未接種例)と対照例(年齢・性が一致したワクチン未接種例)を無作為に抽出した。本計画は病院倫理委員会の承認を事前に得ており、連結不可能匿名化の実施により患者情報の漏えいがないように倫理面への配慮を行っている。ApoEにおける3種のアレル遺伝子(イプシロン2, 同3, 同4)に関するデータを集積して、インフルエンザ発症群におけるApoEアレル遺伝子の保有率と対照群での同アレル遺伝子の保有率との相違を解析した。対照群におけるデータと比較して、インフルエンザ発症群では同アレル遺伝子であるイプシロン4の保有(ホモ・ヘテロ)率が有意に高いことが判明した。以上より、ApoEのアレル遺伝子イプシロン4はインフルエンザ感受性に関連する宿主因子となる可能性が示唆された。
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