リソソーム酵素とその基質類似体との分子間相互作用について、熱力学的および構造学的解析により両者の結合機構を明らかにして、リソソーム病に対する酵素増強治療薬開発のための基盤を構築することを目的として研究を行った。 まず、リソソーム病の中でも最も発生頻度が高く、臨床的重要性が大きいファブリー病をターゲットとして、基礎的検討を行った。チャイニーズハムスター卵巣由来の細胞で生産したヒトα-ガラクトシダーゼ(GLA)と、その基質類似体である1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)およびガラクトスタチン・バイサルファイト(GBS)との結合反応を表面プラズモン共鳴法や等温滴定カロリメトリー法で解析した。DGJとGBSは、いずれもGLAとエンタルピー駆動的な反応性を示したが、結合定数はDGJの方がGBSよりも大きく、より強い結合能を示した。また、GLAと基質類似体との結合に関して、in silicoで構造学的に解析した所、DGJは、GLAの活性ポケット内に埋め込まれた形で入り込み、触媒アミノ酸残基を含む活性ポケット構成残基と水素結合すると考えられた。一方、GBSも、その本体はGLAの活性ポケットに入るが、その側鎖は活性ポケットの内壁に沿った形で存在し、この部分がGLAとの結合に影響を与えるものと予想された。 次に、GLA変異体と基質類似体との分子間相互作用を調べるため、M51I変異を持つGLA(M51I-GLA)と野性型GLAとをメタノール資化性酵母で生産し、カラムクロマトグラフィー法で精製した。M51I-GLAは、野生型GLAと比較し、特異酵素活性や基質親和性は変わらなかったが、中性および酸性下で急速に活性を失い、不安定であった。
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