研究概要 |
本研究は乾癬表皮細胞に内在する情報伝達機構の異常と、それに付随する乾癬表皮の表現型の関連を解明することを目的にしている。 最終年度では、特にリンパ管マーカーとして知られるpodoplaninの表皮における発現について大きな進展がみられた。昨年までの研究により、正常では認められないpodoplaninの発現が、乾癬表皮では、顆粒層陰性の、より増殖が亢進し細胞密度の上昇した表皮で認められることを報告しているが(Honma et al: J Dermatol Sci 65: 134, 2012)、さらにその発現部位が、増殖の亢進した表皮稜の下端に合致することを見出した(Honma et al. J Dermatol 40: 296-7, 2013)。これは表皮幹細胞マーカーであるβ1インテグリンの発現とちょうど逆パターンになっており、想定されるtransit amplifying cell(TA 細胞)の存在部位に合致している。 さらに、表皮細胞株を用いた実験により、podoplaninの発現誘導が細胞密度依存性にEGF受容体の活性化にともなうStat3のリン酸化を介して起こることも見出した。(Fujii et al: Cell Signaling (in press))。 以上の結果は、乾癬表皮ではTA細胞領域の大幅な増加が起こっていることとあわせ、podoplaninが、表皮におけるTA 細胞の有力な新規マーカーになりうること、また、この現象が、乾癬表皮でみられるEGF受容体の活性化と連動していることを示すものである。 我々の結果は、乾癬においては、EGF受容体系を含めた増殖と分化のシグナルが、正常表皮とは全く異なるものの、極めて秩序だった整合性のあるシステムであり、また増殖後、基底細胞層から切り離された乾癬表皮細胞の運命が、早期に決定づけられていることを示唆している。
|