周産期の低酸素暴露が統合失調症への罹患感受性を引き上げる機序として、周産期低酸素暴露により変化したDNAメチル化パターンが刻印されて終生持続し、思春期以降の心身のストレスに応答しての遺伝子発現調節の差を生み出すことで統合失調症への罹患感受性を引き上げることを想定し、低酸素暴露がヒト脳神経細胞由来培養細胞のDNAメチル化パターンに永続的に残す変化の特定を行った。低酸素状態下または通常酸素状態下で培養したヒト神経細胞由来の遺伝子発現プロファイルをIllumina発現マイクロアレイ実験によって特定し比較することで、低酸素暴露により顕著に発現が誘導される遺伝子群と抑制される遺伝子群を特定した。更に抗メチル化シトシン抗体を用いた免疫沈降法により得られるメチル化CpGを含むDNA断片のコピー数を比較することで発現変化に対応するメチル化の変化を評価した。Disrupted in Schizophrenia 1 (DISC1)遺伝子から転写翻訳されるタンパク質と結合して細胞内のcAMP濃度を調節し、統合失調症への罹患感受性が示唆されるphosphodiesterase 4D (PDE4D)の発現が低酸素暴露により低下しているのに対応して、そのゲノム上流領域のメチル化が先進していることが示され、胎生期・周産期の低酸素暴露により本遺伝子上流CpGアイランドの亢進がおこり、発現変化が持続することが統合失調への罹患感受性に関与する可能性が示された。
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