妊娠後期や周産期の低酸素暴露、脳循環障害等の環境負荷が統合失調症への罹患感受性を引き上げる機序として、胎生発達期の環境負荷により変化したDNAメチル化パターンが刻印されて終生持続し、思春期以降の心身のストレスに応答しての遺伝子発現調節の差を生み出すことで統合失調症への罹患感受性を引き上げることが想定される。昨年度、低酸素暴露のヒト脳神経細胞由来培養細胞のDNAメチル化パターンに永続的に残す変化の特定を行ったのに引き続き、本年度は実際の胎生期の脳循環不全、低酸素暴露の要因として想定される妊娠期の母体のウイルス感染の要因に着目し、10匹の妊娠12日目のマウスに非ウイルス性2本差リボ核酸PolyI:C(5.0mg/kg)を1日1回5日間投与し、出生した仔マウスの成長、行動を観察した。出生時体重は対照群平均で1.36gに対し、PolyI:C投与群では1.24gと有意に減少していた(P<0.0001)。この体重差は成長とともに減少し、7週齢になると両群間でサイズの変更はなくなった。一方、7週齢時の行動評価を行うとPolyI:C投与群では対照群に比して一定の観察時間中に2.46倍の距離を移動し、有意にhyperlocomotionが観察された(P<0.005)。今回、我々はより、妊娠後期のウイルス感染に対する応答のモデルとなるように従来よりPolyI:C投与時期を妊娠の後期に設定するモデルを検討したが、子宮内胎児発育遅延の経過をたどり、成長後、体重が正常化する一方、多動などの行動異常が出る点で、胎生期発達障害モデルとして適していると判断された。次年度はこれらのマウスから摘出した脳組織の遺伝子発現解析、DNAメチル化解析などを行い、胎生期の環境負荷が成長後の行動への刻印となる分子マーカーを特定する。
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