本研究では、単一細胞内にも時計遺伝子転写ループによる生物時計機構(細胞内末梢時計)が存在することを利用して、皮膚等から採取したヒト末梢細胞に生物時計リポーター遺伝子を導入し、時計遺伝子転写発現リズムをリアルタイム測定することで、生物時計のリズム周期、位相、振幅をin vitroで精密評価するシステムを構築する。健常被験者を対象とした室内実験により、末梢時計リアルタイム計測システムと従来法の両者で同時評価した結果を比較検証し、本システムの再現性と信頼度を確認する。その後に、概日リズム障害を有する患者(睡眠・覚醒リズム障害、冬季うつ病、アルツハイマー型認知症)を対象として本システムの実用試験を行い、個人の生物時計障害を遺伝子レベルで迅速かつ簡便に診断、その病態生理を解明し、患者にオーダーメード医療を提供することを目的とする。 生物時計リポーター遺伝子Per1::Luc(時計遺伝子Per1プロモーター+ルシフェラーゼ遺伝子)をエレクトロポレーション法によって初代線維芽培養細胞に導入し、細胞内におけるルシフェラーゼ微弱発光量をフォトンカウンティングヘッド(浜松ホトニクス)を用いてリアルタイムに測定したところ、約24時間周期のPer1::Luc日周リズムを観察することに成功した。そこで、20歳代の健常被験者から得た皮膚生検から初代線維芽培養細胞を樹立し、上記と同様の方法でPerl::Lucを導入し、Per1::Luc日周リズムが認められた。さらに、他の生物時計リポーター遺伝子Bmal1::Luc(時計遺伝子Bmal1プロモーター+ルシフェラーゼ遺伝子)を試した結果、Per1::Lucよりも顕著で安定した日周リズムが認められた。このことから、線維芽培養細胞系において時計遺伝子発現リズムを測定する上でBmal1::Lucが有用なリポーター遺伝子であることが明らかとなった。
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