本研究では、単一細胞内にも時計遺伝子転写ループによる生物時計機構(細胞内末梢時計)が存在することを利用して、皮膚等から採取したヒト末梢細胞に生物時計リポーター遺伝子を導入し、時計遺伝子転写発現リズムをリアルタイム測定することで、生物時計のリズム周期、位相、振幅をin vitroで精密評価するシステムを構築する。健常被験者を対象とした室内実験により、末梢時計リアルタイム計測システムと従来法の両者で同時評価した結果を比較検証し、本システムの再現性と信頼度を確認する。その後に、概日リズム障害を有する患者(睡眠・覚醒リズム障害、冬季うつ病、アルツハイマー型認知症)を対象として本システムの実用試験を行い、個人の生物時計障害を遺伝子レベルで迅速かつ簡便に診断、その病態生理を解明し、患者にオーダーメード医療を提供することを目的とする。 健常男性被験者13名に対して、外界環境情報から隔離された特殊検査室において、Forced Desynchrony (FD) protocolを実施した。FD前後のCR中に測定した深部体温の位相の違いΔφ、ならびに、FD前後のCR中に採取した血漿内メラトニンおよびコルチゾール分泌リズムの位相の違いΔφから内因性概日リズム周期τを決定したところ、個人の内因性リズム周期τは24時間前後であり、個人内において、体温、メラトニン分泌、コルチゾール分泌などの生理機能リズムの周期は、よく相関していた。さらに、各被験者から樹立した初代培養細胞におけるBmal1-luc発光リズムと同一被験者生理機能リズムを比較した結果、両者のリズム周期は正の相関を示し、特に、メラトニン分泌リズム周期とは非常によく相関していることが明らかとなった。このことは、末梢細胞における時計遺伝子発現リズム測定は、個人の生物時計in vitro評価法として有用であることが示唆された。
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