研究概要 |
本研究の目的は,ヒト造血幹細胞の放射線感受性の個体差と細胞に発現する表面抗原,増殖能及び遺伝子の特徴との関連を解明し,個々の感受性を規定する因子は何であるかを解明する事にある.この課題解明に向け次の3項目を主題に研究活動を展開した.1.ヒト造血幹細胞の発現抗原,増殖因子受容体,増殖能,細胞内抗酸化システム,細胞内アポトーシス関連分子等の特性と放射線感受性との関連性解明,2.ヒト造血幹細胞の遺伝的特徴と放射線感受性との関連性解明,3.放射線感受性個体差診断方法の開発に向けた検討.平成21年度の研究の結果,以下の点を明らかにし,報告した. (1)ヒトCD34^+細胞表面のCD38とCD45RA及びCD110とTie2発現には有意な相関が認められ,巨核球系前駆細胞数はTie2発現と逆相関し、総前駆細胞の放射線感受性はTie2発現と相関が認められた. (2)ヒト造血幹細胞への重粒子線照射では,酸化ストレス応答関連遺伝子のうちNrf2ファミリーに属するHO1及びNQO1遺伝子に有意な発現増加が観察され,巨核球分化初期過程における遺伝子発現の変動作用が示された. (3)ヒト成熟巨核球は放射線感受性が高いが,その感受性は巨核球成熟の最終段階,特にproplatelet形成が開始された成熟巨核球では低下する. (4)遺伝子組換ヒト顆粒球コロニー刺激因子の臨床製剤3種類の作用を比較検討し,低濃度でのヒト造血前駆細胞に対する作用や成熟好中球からの活性酸素生成作用に差を認めた. 平成22年度は、これら成果を踏まえ放射線感受性個体差の規定因子の解明に向けさらなる検討を行う。
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