研究概要 |
本研究の目的は,ヒト造血幹細胞の放射線感受性の個体差と細胞に発現する表面抗原,増殖能及び遺伝子の特徴との関連を解明し,個々の感受性を規定する因子は何であるかを解明する事にある.この課題解明に向け次の3項目を主題に研究活動を展開した.1.ヒト造血幹細胞の発現抗原,増殖因子受容体,増殖能,細胞内抗酸化システム,細胞内アポトーシス関連分子等の特性と放射線感受性との関連性解明,2.ヒト造血幹細胞の遺伝的特徴と放射線感受性との関連性解明,3.放射線感受性個体差診断方法の開発に向けた検討.平成23年度の研究の結果,以下の点を明らかにし,報告した. 1.X線曝露ヒト造血幹細胞を,サイトカイン存在下で巨核球・血小板造血への分化増殖過程を解析したところ,細胞数は非照射コントロールに比べて低下するものの,残存細胞からの巨核球・血小板造血はコントロールとの間に差は認められなかった.さらに,培養過程で初期造血に関与する遺伝子であるFLI1やHOXB4,酸化ストレス関連遺伝子であるNQO1やHO1発現の有意な増加が認められ,X線による巨核球・血小板造血の促進作用が示唆された(Radiat Res,176:716-724,2011). 2.2Gy及び4Gy照射ヒト造血幹細胞での活性酸素種(ROS)産生は,サイトカイン刺激下で6時間後に非照射コントロールに比べ有意に増加するが,サイトカイン非存在下では差はなかった.この時細胞内ROS及びミトコンドリア量と生存率との間に関連性は認められず,照射直後のROSは個体差感受性との関連性は低い可能性が示唆された(J Radiat Res,53:145-1502012;J Radiat Res,in press). 3.放射線がパターン認識受容体発現及びそのリガンドである病原菌関連分子に対する応答性に影響する事を明らかにした(14th International Congress of Radiation Research,Warsaw,Poland,2011).
|