研究概要 |
本研究の目的は、膵臓癌の増殖、進展の分子機構を解明し、外科切除と組み合わせた新しい集学的治療法を開発することにある。特に、本研究では癌幹細胞と間葉系細胞との相互作用に注目して研究を行う。 これまで当科にて切除を行った膵癌症例87例の切除標本をご本人の同意の下、使用し、免疫染色を行い、CD133,ALDH,CD44,Oct4の癌幹細胞マーカーの発現強度と、予後を中心とした臨床病理学的因子との間に関係がないかを検討した。その結果、CD44の発現が強いものは、その発現が弱いものに比較して無再発生存期間、全生存期間ともに有意に予後が良好であった。しかし、他のCD133、ALDHといった因子ではこのような予後との相関は認めなかった。そのvariantの発現を見ると、胃癌や大腸癌と違い、膵癌ではCD44 standard formの発現を主に認めた。また、このことは膵癌細胞株でも同様であり、すべての細胞でPCR法で検討する限り、variant formよりstandard formの発現が強かった。そこで、特にCD44の発現が強いAsPC-1およびPanc-1細胞株においてsiRNA法を用い、その発現を抑制した。すると、細胞の遊走能が亢進していることがわかった。また、興味深いことに、これらのCD44発現抑制細胞では、アクチン重合が積極的に起こるようになり、そのために細胞仮足の形成が促進され、細胞遊走能が亢進していると考えられた。以上の結果から、膵癌細胞でのCD44の発現は、他の癌腫と異なり、細胞の遊走能を抑制しており、癌の広がりを押さえることで予後の延長に関与する可能性が示唆された。
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