研究概要 |
肺癌は多数の臓器に転移を来すが,転移の臓器特異性を決定する遺伝子マーカーの検索はこれまで殆んどなされていない.本研究は,組織培養法を応用して複数臓器への同時多発転移をsimulateしたin vitroの実験系を用いて転移先臓器決定遺伝子群の同定を行う.ヌードマウス摘出臓器片(肺,肝,腎,副腎,骨,筋)をヒト肺腺癌培養細胞株A549,PC-14, VMRC-LCDとともに組織培養し,培養組織に生着,浸潤した細胞亜株を回収し,臓器上培養を繰り返した後、臓器上培養から得られた各細胞株の遺伝子発現の変化をoriginalの細胞株の遺伝子発現とマイクロアレイにて比較した.それぞれの遺伝子について,各臓器から回収された各細胞株の発現変動と他の5臓器から回収された細胞株の発現変動を比較し,t検定にて有意差(p<0.05)が認められ,かつoriginalに比し平均で1.5倍以上の変動が確認された遺伝子をそれぞれの臓器特異性を決定する候補遺伝子として抽出した.肺,肝,腎,副腎,骨,筋において,それぞれ24, 212, 25, 76, 151, 27の候補遺伝子を抽出した.うち最も最も特徴的な変動は副腎におけるcalbindin-D28kの増強であった.Calbindin-D28kはsteroid induced apoptosisを抑制する.originalのPC-14細胞はin vitroで1, 4, 16, 64 μM/mlのdexamethazoneによりそれぞれ5.9%, 35.5%, 51.8%, 76.8%と濃度依存性の増殖抑制を示すが,副腎組織培養上から回収されたPC-14細胞はいずれの濃度においても有意な増殖抑制を認めなかった. calbindin-D28k発現増強は副腎転移特異性決定遺伝子であり.本研究手法により臓器特異性決定遺伝子群の抽出が可能であると考えられる.
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