研究概要 |
グリオーマ幹細胞において幹細胞形質がPI3K,mTORの制御を受けているかについて検討を行った。幹細胞形質に関する検討の方法論としては、自己複製能をsphere形成アッセイにより、未分化/分化状態はそれぞれのマーカーの発現状態を検討することにより、評価した。グリオーマ幹細胞としては、グリオーマ培養細胞株から単離培養したもの、手術摘出したグリオブラストーマ組織から直接単離培養したものの両者を用いた。検討の結果、PI3K、mTORの阻害薬(LY294002, rapamycin)は単独でもある程度幹細胞形質に対する抑制効果、分化誘導効果を示したものの、両者の併用でより効果的にこれらの変化が生じることが確認された。さらにPI3K、mTORの同時阻害がグリオーマ幹細胞の造腫瘍能に与える影響をPI3K、mTORのdual inhibitorであるNVP-BEZ235を用いて検討したところ、NVP-BEZ235は予想通りグリオーマ幹細胞に分化を誘導したが、この分化細胞を薬剤のwash out後にヌードマウス皮下ないし頭蓋内に移植したところ、皮下では腫瘍増大の抑制が、頭蓋内では腫瘍増大の抑制ならびに生存期間の延長が観察された。これらの結果はPI3KとmTORの同時阻害によりグリオーマ幹細胞の幹細胞形質ならびに造腫瘍能を効果的に抑制できることを示しており、PI3K、mTORのdual inhibitorがグリオーマ幹細胞を標的とした治療戦略上有用である可能性が示唆された。 一方、PI3K、mTORの同時阻害によってもグリオーマ幹細胞の造腫瘍能を完全に抑制することができなかったため、他のシグナル伝達経路によるグリオーマ幹細胞維持の可能性についても検討を行ったところ、新たにMAPK経路の関与が明らかになった。
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