研究概要 |
高血圧やエストロゲン欠乏状態が脳動脈瘤形成および増大に及ぼす分子機序の解明と、薬物治療による脳動脈瘤壁の安定化の可能性、機序を検討するために雌ラットに脳動脈瘤を誘発し、動脈瘤の形成・増大過程における血管内皮のtight junction蛋白のoccludinやZO-1の発現を調べた。動脈瘤壁では、これらの低下によってマクロファージの血管壁への浸潤が亢進され、酸化ストレスや炎症関連分子によって血管壁が崩壊することで脳動脈瘤形成にいたる可能性を示した(J Hypertension, 2010)。さらに抗炎症、抗酸化あるいは血管内皮保護作用を示す可能性のある薬剤(エストロゲン補充療法、angiotensin II type 1 receptor, phosphodiesterase 4 inhibitor)をラット脳動脈瘤モデルに投薬し、脳動脈瘤の形成・増大抑制作用を調べた。これらの薬物を用いて抑制効果がみられ、脳動脈瘤の形成・増大に炎症や酸化ストレスが強く影響することを示した(J Hypertension, 2009、Neurosurgery, 2009)。さらに特異的なmineralcorticoid receptor (MR)阻害剤eplerenoneで治療すると血圧非依存的に動脈瘤が抑制され、この効果と相関して塩分摂取量が低下した。逆にMR agonistであるDOCAを投与したDOCA-saltラットでは塩分摂取量の増加が認められ,軽度の血圧増加にもかかわらず高血圧ラットと同頻度の動脈瘤形成を認めた。脳動脈瘤抑制にはRASに加えてMRの抑制が重要であり、かつ脳動脈瘤形成において高血圧よりエストロゲン欠乏と、体内塩分貯留が強い影響を及ぼす可能性が示唆された(Hypertension, 2009)。脳動脈瘤破裂に関しては我々のモデルにおいてはスタチン投与によって破裂しやすいことが判明しており(Tada et al. Stroke, 2011)、また増大部位とは別の部位で破裂が認められるごとから病因が異なる可能性があり,またさらに詳細に破裂の機構を解明することが必要と考えている。
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